TS-990のREMOTE connectorの端子配列は次のようになっています。(TS-990徹底解説集より)
機械式relayを使う方法
REMOTE connectorのpin 2,4,5がexciter内部の機械式relayに繋がっており、送信時にMKE(pin 4)がCOM(pin 2)に接続されるので、これをlinear amplifierのSEND(TX GND)等に接続します。この方法は接続が単純ですが、欠点は機械式relay音が五月蠅い事です。またこの端子の定格が取扱説明書等に見当たりませんが、TL-922(stand-by端子の定格 DC100V、40mA)が接続できるとしていることから、それを優に超える定格があるものと推測されます。
(2014/12/18 追記)Kenwoodのrigsでlinear amplifier駆動に使用されている機械式relayはDS1E-M-DC12V(Panasonic, NAIS)で、定格は次の通りと分かりました。
60W or 125VA
DC 220V or AC 250V3A
半導体switchを使う方法
一方REMOTE connectorのRL(pin 7)には半導体switchを介してstand-byに連動して電圧が出るようになっています。但し、上図のActive Low論理用のFETはTS-990だけに追加されており(MENUで切替可能)、TS-590や従来機種ではbipolar transistorによるActive High論理の出力しかありません。従ってTS-990の場合は「Active Low」の設定(後述)にする事で送信時にpin 7をGNDに落とし、amplifiersを駆動する事が出来るようにも思えます。しかし問題は取扱説明書によると許容電流が10mAしかない事です。
よく使われている(solid state)linear amplifiersのstand-by端子の定格を調べてみると次のようでした。
IC-PW1 | DC 5V, 0.1A |
JRL-2000F | DC 12V, 5mA |
つまり、JRL-2000FはOKと思いますが、
IC-PW1はTS-990のRL端子(pin 7、Active Low論理)からは直接駆動出来ないことになります。実際、IC-PW1の取扱説明書には次のように記載されています。
IC-PW1のACC端子の説明にはSEND端子の流出電流は「20mA以下」とも記載されていますが、それにしても10mAを超えますのでやはり直接接続は出来ないと考えた方が良いでしょう。
又、TS-990のActive Low論理の場合の耐圧はDC 15V迄という事ですので、後述の「リニアアンプ・コントロール設定」でTX Delayを加えた場合でも、TL-922等の真空管式amplifiersは駆動出来ません。
これはちょっと残念な話ですね。他社のexcitersの半導体stand-by端子の定格を調べてみると次の通りでした。
IC-7600 | 250V, 200mA |
FT-1000MP MkV | DC 40V, 150mA |
従ってこれらのexcitersからは、以下に述べる緩衝回路無しに、半導体switchから直接にIC-PW1、JRL-2000F等のamplifiersが駆動できます。(IC-7600は真空管式amplifierもstand-by出来ます。)
なお、JRL-3000F/TL-933のstand-by回路の定格は調べられませんでした。ですが、取扱説明書によるとTL-933はTS-590/990のRL端子から(Active High論理で)直接駆動できるとしていますので、流入電流定格は10mA以上あるものと思われます。
IC-PW1用緩衝回路入りLinear Amplifier制御cableの製作
以上の考察から、TS-990に内蔵の半導体switchを利用してIC-PW1を駆動するには緩衝回路が必要と判りました。「実際には10mAも電流は流れないだろうから直接繋いでも大丈夫じゃないか?」と言う人も居ますが、ICOM側が保証していない以上、TS-990の半導体switchを焼損してしまいたくはありません。
IC-PW1(2台)のSEND端子の流出電流を実測したところ、8.0~9.8mAでした。10mAは辛うじて超えていませんでしたが、定格10mAのTS-990のRL端子にはやはり繋がない方が良いでしょうね。(2014/6/14)またTS-590の半導体switch回路には元より「Active High」の論理しかありませんから、論理を反転しない事にはSEND(TX GND)がGNDに落ちる事によって送信になるような通常のamplifiersを駆動できません。
そこで、2種類のcablesを作ってみたので報告します。緩衝回路により論理を反転し、exciter側は「Active High」の論理で動作するものです。どうせ作るのなら汎用性の高いcableにしておきたく、ALC制御線に加えて、通常の機械式relayによるstand-by線も一緒にDIN connectorに組み込むことにしました。IC-PW1だけでなく、どんなlinear amplifiersにも接続できるようにです。
Photo relayを用いる方法(高耐圧版)
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TLP222GF(写真:秋月電子通商) |
Photo deviceにより完全に絶縁されているので、次に述べるtransistor版に比べてshack内の電波障害にやや有利ではありますが、部品点数の関係でDIN plug内部に回路を埋め込むのは難しいでしょう。
Digital Transistorを用いる方法(低耐圧版)
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DTC124ESATP(写真:マルツパーツ館) |

Open collectorのtransistor switchは無線ではCW/PTT/FSKのinterfaceにもよく使われていますが、何とbias抵抗がtransistorのpackageに埋め込まれたdigital transistorという便利なdeviceがある事をJA7UDE 大庭OMに教えて頂きました。
Digital transistorsにも各社の製品がありますが、digital回路用のためか入力耐圧が5~10V程度の物があって本用途には使用できません。筆者は、大庭OMに教えていただいたROHM社のDTC124ESAという物を用いました。入力側耐圧は-10~40Vと負電圧でもOKですし、出力側定格は50V、100mAですのでIC-PW1の駆動は問題無いでしょう。(ただし、さすがにTL-922は駆動できません。上の高耐圧版を用いるか、素直に機械式relayで駆動しましょう。)
このcableの利点は、部品がたった1個しか無いことです!Sizeは通常のTO92 packageのtransistorよりも少し小さい位ですので、余裕でDIN plug内に組み込め、smartなcableが作成できました。
Kenwood exciter側の設定
MENU設定だけですが、これがちょっとややこしいので解説しておきます。
TS-590の場合
上表(TS-590徹底解説集より)のように3つのON設定(1,2,3)があり、「リニア・アンプ制御(RL端子)」というのが半導体switchを指し、「リレー制御(COM/BRK/MKE端子)」というのが機械式relayを指しています。この辺の用語の使い方をもっと分かり易くして欲しいですね。- 機械式relayで制御する場合
- 「2か3」の設定にします。そうしないとrelayがONになりません。
- Solid stateのfull-QSKのamplifiersの場合は、「2」でいいでしょう。
- 真空管式(TL-922等)は遅延時間を取って、「3」にします。
- 半導体switchで制御する場合
- 「1」にします。そうするとrelayの騒音から解放されます。
- TL-922等遅延が必要なamplifiersを半導体switchで静穏に駆動する事は、そういう設定が無いので出来ません。もし「1」に遅延時間を加える設定があれば、photo relay版のcableを用いて出来たのですが、遅延時間を加えるには「3」を選ぶしかなく、そうするとRL端子(半導体switch)を用いて制御したとしても使わないのにrelay音が鳴ってしまいます。
TS-990の場合
上表(TS-990徹底解説集より)のようにTS-590よりも設定の種類が2つ増えています。「Active High」「Active Low」という従来機種には無かった言い回しもあります。「RL出力」が半導体switchを指し、「リレー制御」が機械式relayを指しています。結局の所、上の3つのON設定はTS-590の「1,2,3」に相当します。TS-590や従来機種はRL端子(pin 7)は「Active High」論理であって、TS-990になって初めてFET open drainによる「Active Low」論理が追加されたのです。(尚、遅延時間がTS-590では25msでしたが、TS-990ではSSB、FM、AMは45ms、それ以外[CW、FSK、PSK]では25msとなっています。)
この追加された「Active Low」論理というのは、機械式relayの動作を伴わず、送信時GNDに落ちるという事でまさしくlinear amplifierのSEND(TX GND)端子に直接接続するのに良いように思われますが、残念ながら上述のように許容電流が10mAであるため、この論理で直接IC-PW1を駆動することは出来ません。
- 機械式relayで制御する場合
- 「Active High + Relay Control」か「Active High + Relay & TX Delay Ctrl」にします。そうしないとrelayがONになりません。
- Solid stateのfull-QSKのamplifiersの場合は、「Active High + Relay Control」でいいでしょう。
- 真空管式(TL-922等)は遅延時間を取って、「Active High + Relay & TX Delay Ctrl」にします。
- ここでいう「Active High」は次の半導体switchの動作の事を指していますので、機械式relay動作の場合には何の意味もありません。機械式relay自体は言わばActive Low論理で動作するので、非常に紛らわしい表現だと筆者は思います。
- 半導体switchで制御する場合
- TL-933の場合は、専用cableで繋いで「Active High」にするそうです。(具体的回路は解りませんが、Active High論理で動作するinterfaceになっているのだと思います。)
- 筆者製作の上記2種類のcablesはいずれも緩衝回路で論理が反転しますので、SEND(TX GND)がGNDに落ちる事によって送信状態となる通常のlinear amplifiersに接続する場合、「Active High」を選択します。これによりrelayの騒音から解放されます。
- 但し、真空管式などnon-QSK amplifiersの場合は遅延が必要です。所が残念ながらTS-590の場合と同様の状況で、設定項目の問題で、このcableを使っても半導体switchを用いて遅延時間を付加して静穏にamplifierを駆動する事が出来ません。「Active High + TX Delay Control」(Relay無)という選択肢が無いのです。Active High論理で遅延時間を取るには「Active High + Relay & TX Delay Ctrl」を選択するしかなく、そうすると使わないのにrelay音がしてしまい、半導体switchで駆動する意味がありません。